【つながりその2】「TTからの電話」

二日酔いで朦朧とし、オートパイロットで朝飯を食って王様のブランチをぼんやりと眺めている土曜日の昼、ケータイが「通知不可能」という文字とともに、ぶるぶると唸り始める。海外からの着信だ。海外からかけて来るヤツは二人しかいない、と思いつつ、電話に出ると声の主はTTであった。
このTTというヤツは、同期入社の悪友で、ハワイ(というか成田で飛行機に乗り遅れそうになる)、タイ(パンガン島の悪夢)、アムス(グラスホッパーの恐怖)、天神平(フジロックという名のベトナム)などなど、数々の戦場と共にしてきた男である。現在は欧州某国で、なんかしてるらしい。
TTは大概ゴキゲンなときによく電話をかけてくるが、今回も例外ではない。ケータイは音が悪い、と言うので有線の番号を教えるが、必死に暗記しようとしてまったく成功せず、結局メモを取っていた。そう、TTは昔から、数字を覚えることと、カタカナが苦手(シェラトンというホテルを、シェトランと読み違える男)なのだ。
有線に変え、フリースを羽織ってベランダに。一服しながら長電話の始まりである。TTは朝方帰宅したのだが、「なんだか議論したい気分」だそうで、電話かけてきたらしい。「今日駐車場で車ぶつけた」、「タバコは止めるべきだ」、「会社辞めるか」、「同期のNは眉毛が濃い」、「空を飛ぶ車は新しい免許がいるか」、「UFOを見た」だのなんだの、これと言ったテーマも絞られること無く、お互いに議題の提起とそれに対する何かを述べる。タバコ3本すって、いい加減足が冷えてくる。そのうちTTは小腹が減ったのか、おもむろに焼きそば(インスタント)をつくり、受話器越しに特徴的な咀嚼音が聞こえてくる。耳元で聞こえる咀嚼音は、晴れた冬の昼の風景には、あまり合わなかった。
しばらく焼きそばの湯切り口の技術的向上に、日本の生産性の高さを見出して感心していると、急激に便意を催した。土曜の昼、寒い中タバコ吸ってれば、当然の報いである。一瞬、電話持ったままトイレに行くことを考えたが、いくら悪友といえどもそこまでは、と思い、急いで電話を切って、TTとの電話は終わったのだった。
TTとは、欧州に行ってしまってからと、その前数年は、あまり会う頻度が変わらない。そのさらに前は、しょっちゅう一緒だった。いずれにしても、お互いどういう物理的距離感であっても、精神的な距離感はあまり変わらないのだ。不思議なものだ。お互い、少しずつ変わっていってることも実感する一方、いつまでも変わらないもの、「つながり」が、そこには確かにあるのだ。